審査会 Report

プレゼンテーションから3日後、4人の審査員が集まり、KAHD審査会が開催されました。

プレゼンテーション後に追加資料として提出された予算案も考慮しながら、現地でのオペレーションも含めたプランの実現性、アート作品としての完成度、芸術祭における効果などが約1時間かけて検討され、最終的に3作品が選出されました

惜しくも選に漏れた中には、アート作品として展示するよりも芸術祭の中の別のプログラムとしてピックアップした方が良いと思えるアイデアや、2つのチームの作品を組み合わせたら一段レベルの違う作品が生まれそうという意見が挙がったアイデアもいくつかありました。いずれの審査員も、従来の枠組みにとらわれない新しいアートを生み出す手段として、ハッカソンが一つの有効な手法に成り得るということを実感したようです。選ばれた3チームが、これから8カ月の準備と制作を経て、国際舞台で活躍する招待作家たちに拮抗する優れた作品を完成させることができるのか、芸術祭本番への期待が高まります。

11/7・8 Day 3・4 Report - Prototyping -

アーティスト、エンジニア、デザイナー、伝統工芸職人、建築家、研究者など約60名が参加した今回のKAHD。10月24日~25日の茨城での2日間では、参加者が県北地域を実際に訪れ、県北の自然・産業・文化・歴史などを知ることからアイデアを発想してチーム作りを行いました。それから2週間後の11月7日~8日には、東京に場所を移して、アイデアを作品として形にするためのプロトタイピングと審査員へのプレゼンテーションが行われました。

11月7日(土)の早朝、東京渋谷のロフトワークにKAHD参加者が再び集結しました。茨城県北でのアイディエーションからあっという間の2週間。青木氏、林によるオープニングで、改めて今回のKAHDでの審査のポイントが3つ説明されました。ひとつ目は茨城県北芸術祭で展示するというテーマに対するコンセプトとの親和性。2つ目は予算やオペレーションも含めたアイデアの実現性。3つ目は予想を超えた驚きや感動をもたらすマジックがあるかです。

そのあとすぐに、2つのフロアに13チームが分かれて、プロトタイピングがスタートしました。事前に準備した素材を持ち込んで組み立て始めるチーム、PCでプログラミングやデータ処理を進めるチーム、ホワイトボードに書き込んだ課題をひとつずつクリアしていくチーム、キッチンを使って何やら実験を始めるチーム。それぞれが、目的に向かって一気に動き出します。

Day1とDay2でプログラムが細かく設定されていたのとは異なり、プロトタイピングの2日間は、Day4の16時半に設定された審査員へのプレゼンテーションまで、時間の使い方はまったくの自由です。中には、この日も茨城に行って現地で追加のリサーチや素材収集をしに向かったチームもありました。

Day3は19時に終了が告げられますが、希望するチームは残ってそのまま作業することができます。中には徹夜で作業をしたり、夜遅くなってから茨城から戻ってきたチームもありました。

Day4の夜には最終発表を控え、チームの緊張感は徐々に上がっていきます。最終発表では、KAHDの審査を務める4名の審査員--KENPOKU Art 2016 茨城県北芸術祭の総合ディレクターを務める南條 史生氏、同じく芸術祭のクリエイティブディレクターを務める谷川 じゅんじ氏、ライゾマティクスの齋藤 精一氏、『WIRED』日本版 編集長 若林 恵氏--が各チームのプレゼンテーションを真剣に聞いて回りました。

19時にはすべてのチームがプレゼンテーションを終え、各地から集った個々の才能がアイデアを出し合い、チームを作って、アート作品のプロトタイプを制作するというKAHDの実験的な試みは終了。絶え間ない試行錯誤とディスカッションを繰り返し、ハッカソンならではの濃密な時間を過ごす中で、参加者たちの創造性が大いに発揮された4日間となりました。この中からどの作品が選ばれるのか、後日行われる審査の結果が待たれます。アフターパーティでは、解放感と達成感に満ちた参加者たちの充実した笑顔が印象的でした。

10/25 Day 2 Report - Ideation -

KAHD2日目はシビックセンターでスタート。Day2はアイディエーションからチーム決定、プロトタイプに向けたアイデアのブラッシュアップまでを一気に行います。ディレクターの林と青木氏が前日の視察でのインプットを振り返り、今回のハッカソンがアート作品を生み出すという目的であることを改めて強調し、茨城県北の歴史や文化や自然を踏まえた上で、新しい価値や視点を見出し、いかに表現するかという、アートに求められる役割と期待が述べられました。

アイデアの発散

Day1に得たインスピレーションや、浮かんだアイデアを言語化・ビジュアル化することを目的にしたアイディエーションセッションがスタートしました。まずは、大きな紙と筆記用具、付箋などが準備されたテーブルにそれぞれ5人ずつが座り、自分のアイデアを紙に書き出していきます。
後半は、テーブルを移動しながら様々な人とディスカッションをしながら、自分のアイデアを誰かのアイデアと組み合わせたり、他の人のアイデアに自分のスキルを生かす方法を模索したり、、ハッカソンの特徴である共創への萌芽も見えていきます。

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各テーブルで活発な議論が起こる中、あっという間に2時間が経過。ここで、希望者による参加者全員へのアイデアのプレゼンテーションが行われ、全部で37案が発表されました。

チームビルディング

午後からは、ランチを取りながら廊下のボードに貼りだされた各アイデアを吟味し、自分が参加したいと思うアイデアに付箋を張っていきます。最終的に残った13のアイデアで各3~7人のチーム編成ができました。日鉱記念館で見た大煙突や岡倉天心の六角堂といった建造物を直接モチーフにしたものや、人の営みと自然の拮抗をテーマにしたもの、県北の豊かな食に着目して地元住民との協働を目指したもの、バイオテクノロジーを取り入れたものなど、いずれも魅力的なアイデアで、昨夜の江渡さんのプレゼンテーションにあった「共創プラットフォーム」としてのハッカソンの可能性を改めて実感しました。

決定したチームごとにテーブルに分かれた後、スポンサーセッションで協賛いただいた企業の担当者から、それぞれのプロダクトやテクノロジー、素材などの説明がされ、参加者は作品を形にしていく中で取り入れられるものはないかをインプットします。

アイデアブラッシュアップ

帰りのバスが出発するまでの残り時間、タイムリミットのギリギリまでチーム内でのアイデアブラッシュアップとプロトタイプに向けた準備が行われました。Facebookでチームのグループを作り、今後のスケジュールの調整や、メンバーの役割分担を決め、制作に向けての具体的なプロセスを確認します。

同時に、リサーチやリソースは足りているのか、アートとしてのクオリティや強度はあるかなど、プロトタイプでの着地点も探っていきます。具体的な作品の完成イメージが既に固まっていて着々と作業を進めていくチームもあれば、コンセンサスを得たアイデアを起点に効果的な表現を模索している段階のチームまで、チームによって違いはありますが、共通しているのは、全員が朝から集中力を持続したまま真剣に話し合っていること。まだ会ってから2日に満たないにも関わらず、共通の目標に向かってこのような濃密なコミュニケーションが成立するのは、ハッカソンならではの醍醐味といえるでしょう。

熱気が冷めやらぬまま16時になり、林と青木氏による総括セッションが行われ、2日間にわたる茨城でのアイディエーションセッションはクローズしました。地元から参加の茨城組はここで解散し、残りはバスに乗り込んで東京へ帰ります。そして、これから2週間、それぞれのチーム内でさらなるブラッシュアップや試行錯誤が繰り返され、11月7日~8日のプロトタイピングに備えます。

10/24 Day 1 Report - Ideaton -

2015年10月~11月にかけて、ハッカソンを通じて生まれたチームを2016年秋に開催される「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」に招聘するという日本で初めての試み「KENPOKU Art Hack Day(以下KAHD)」が実施されました。茨城で行われたアイディエーションのDAY1&2と東京で行われたプロトタイピングDAY3&4の模様をダイジェストでレポートします。

10月24日の朝、アーティスト、エンジニア、デザイナー、伝統工芸職人、建築家、研究者など、様々なジャンルのクリエイターたちが東京駅から茨城県日立市を目指して出発。KAHDディレクターを務める林千晶(株式会社ロフトワーク 代表取締役)と青木竜太氏(3331 alpha ディレクター、VOLOCITEE Inc. 代表取締役社長)と共に、茨城県内から参加する人たちを除いた約40名がここから2台のバスで茨城へと向かいます。

時間が限られているハッカソンでは、初めて会う人といかに関係性を構築するかが大きな鍵になるため、ディレクターたちが車中でも積極的にコミュニケーションをはかるよう参加者たちを促します。

東京を出て2時間ほどで、茨城県北エリア最初の中継地、日立市のかみね公園へ到着しました。高台にあるこの公園は見晴らしがよく、展望台の上からは日立市が一望できます。

その後、日立市民会館に移動して、東京からの参加者と茨城県内からの参加者が一堂に会しました。11時半、KAHDのオープニングについてのオリエンテーション受けてから、一行は県北を理解するために用意された茨城県北ツアーに出発します。

この日の午後に行われるツアーは、KAHD参加者が県北の特徴的な自然や文化・歴史を知ることにより、作品制作のためのアイデアのインスピレーションを得ることを目的にしていて、日鉱記念館、天心記念五浦美術館、六角堂を巡りました。

最初に訪れた日鉱記念館は、工業都市・日立市の発展の原点であり、茨城県の鉱工業の発祥となった日立鉱山の跡地に建てられた資料館です。参加者たちは、実際の鉱石の展示や採掘現場が再現された模擬坑道、住居だけでなく鉄道や娯楽施設まであった最盛期の鉱山町の暮らしと「一山一家」と言われた独特の気風を伝える資料、日立のシンボルとなった155メートルの大煙突の建設経緯や公害問題の取り組みを伝える展示などを、約1時間をかけて見学しました。展示からうかがえる当時の活気と、静まり返った現在の鉱山跡地の様子とのギャップも、強い印象を残したようです。

続いて訪れた五浦(いづら)海岸は、この地域独特の岩石と太平洋の荒波によって生まれた断崖絶壁の続く個性的な景観が特徴で、明治時代に近代日本画の創造に大きく貢献した岡倉天心が弟子たちとともに後半生を過ごした場所としても知られています。

茨城県天心記念五浦美術館で岡倉天心の業績や五浦ゆかりの画家たちの作品展示を鑑賞したあと、参加者たちは打ち寄せる波の音が聞こえる海岸沿いを歩いて、岸壁の上に立つ六角堂に向かいました。

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六角堂は、天心が辿り着いた近代を乗り越える思想を発信する象徴として建てられた小さな建物ですが、東日本大震災で津波に流されてしまい、現在のものは翌年再建されたものでした。KAHDの参加者たちは、県北の太平洋岸が震災で大きな被害を受けた地域であることを実感するとともに、県北の海側と最初に訪れた山側の風土の違いを肌で感じ、多くのインスピレーションを受けた様子でした。

県北を体感するツアーを終え、日立シビックセンターに集まりました。。すでに12時間が経過していますが、ハッカソンとしてはここからが本番です。林と青木氏の挨拶のあと、飛勘水産さんによる地元の食材を使ったケータリングをバイキング形式で食べながら、アイディエーションへのヒントになるゲストによるトークセッションがはじまります。

大子町のまちづくり課の皆川敦史さんによる「茨城の県北の歴史的背景」と題したレクチャーでは、昼間見学した鉱山業が、地域の歴史の流れの中でどの辺りに位置するものなのかを改めて確認することができました。

続いて、独立行政法人製品評価技術基盤機構(nite)バイオテクノロジーセンター所長の能登靖さんから、今回の芸術祭でのテーマの一つにもなるバイオテクノロジーについてのプレゼンテーションが行われ、バイオの最先端技術とアートの接続する可能性についてヒントを与得ました。

最後に、産業技術総合研究所主任研究員でありニコニコ学会β実行委員会委員長も務めるメディアアーティストの江渡浩一郎さんから、「野生化のための技術」と題したプレゼンテーションが行われ、ハッカソンやアンカンファレンスがもつ共創プラットフォームとしての可能性が示されました。

休憩を挟んでから、青木さんのファシリテーションにより、翌日に向けてのアイディエーションの準備ワークが開始されました。まずは、5人1組になって、1人3分の持ち時間で自分の専門とスキルの紹介と、昼間の視察で印象に残ったモノやコトを写真や動画を見せながら共有。

この作業をメンバーを入れ替えて2セット行なったあと、次のステップでは、自分がどんな作品を作りたいか、アイデアの種を共有していきました。他の参加者の意見を聞くことで刺激を受け、構想を膨らませたりしていると、あっという間に21時半となり1日目の終了時間を迎えました。

最後に全員で記念写真を撮影してこの日は解散となりましたが、参加者たちは会場を出た後も、日立の夜の街に出かけて自主的に活発な交流を続けていました。