10/24 Day 1 Report - Ideaton -

2015年10月~11月にかけて、ハッカソンを通じて生まれたチームを2016年秋に開催される「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」に招聘するという日本で初めての試み「KENPOKU Art Hack Day(以下KAHD)」が実施されました。茨城で行われたアイディエーションのDAY1&2と東京で行われたプロトタイピングDAY3&4の模様をダイジェストでレポートします。

10月24日の朝、アーティスト、エンジニア、デザイナー、伝統工芸職人、建築家、研究者など、様々なジャンルのクリエイターたちが東京駅から茨城県日立市を目指して出発。KAHDディレクターを務める林千晶(株式会社ロフトワーク 代表取締役)と青木竜太氏(3331 alpha ディレクター、VOLOCITEE Inc. 代表取締役社長)と共に、茨城県内から参加する人たちを除いた約40名がここから2台のバスで茨城へと向かいます。

時間が限られているハッカソンでは、初めて会う人といかに関係性を構築するかが大きな鍵になるため、ディレクターたちが車中でも積極的にコミュニケーションをはかるよう参加者たちを促します。

東京を出て2時間ほどで、茨城県北エリア最初の中継地、日立市のかみね公園へ到着しました。高台にあるこの公園は見晴らしがよく、展望台の上からは日立市が一望できます。

その後、日立市民会館に移動して、東京からの参加者と茨城県内からの参加者が一堂に会しました。11時半、KAHDのオープニングについてのオリエンテーション受けてから、一行は県北を理解するために用意された茨城県北ツアーに出発します。

この日の午後に行われるツアーは、KAHD参加者が県北の特徴的な自然や文化・歴史を知ることにより、作品制作のためのアイデアのインスピレーションを得ることを目的にしていて、日鉱記念館、天心記念五浦美術館、六角堂を巡りました。

最初に訪れた日鉱記念館は、工業都市・日立市の発展の原点であり、茨城県の鉱工業の発祥となった日立鉱山の跡地に建てられた資料館です。参加者たちは、実際の鉱石の展示や採掘現場が再現された模擬坑道、住居だけでなく鉄道や娯楽施設まであった最盛期の鉱山町の暮らしと「一山一家」と言われた独特の気風を伝える資料、日立のシンボルとなった155メートルの大煙突の建設経緯や公害問題の取り組みを伝える展示などを、約1時間をかけて見学しました。展示からうかがえる当時の活気と、静まり返った現在の鉱山跡地の様子とのギャップも、強い印象を残したようです。

続いて訪れた五浦(いづら)海岸は、この地域独特の岩石と太平洋の荒波によって生まれた断崖絶壁の続く個性的な景観が特徴で、明治時代に近代日本画の創造に大きく貢献した岡倉天心が弟子たちとともに後半生を過ごした場所としても知られています。

茨城県天心記念五浦美術館で岡倉天心の業績や五浦ゆかりの画家たちの作品展示を鑑賞したあと、参加者たちは打ち寄せる波の音が聞こえる海岸沿いを歩いて、岸壁の上に立つ六角堂に向かいました。

_MG_0615.JPG

六角堂は、天心が辿り着いた近代を乗り越える思想を発信する象徴として建てられた小さな建物ですが、東日本大震災で津波に流されてしまい、現在のものは翌年再建されたものでした。KAHDの参加者たちは、県北の太平洋岸が震災で大きな被害を受けた地域であることを実感するとともに、県北の海側と最初に訪れた山側の風土の違いを肌で感じ、多くのインスピレーションを受けた様子でした。

県北を体感するツアーを終え、日立シビックセンターに集まりました。。すでに12時間が経過していますが、ハッカソンとしてはここからが本番です。林と青木氏の挨拶のあと、飛勘水産さんによる地元の食材を使ったケータリングをバイキング形式で食べながら、アイディエーションへのヒントになるゲストによるトークセッションがはじまります。

大子町のまちづくり課の皆川敦史さんによる「茨城の県北の歴史的背景」と題したレクチャーでは、昼間見学した鉱山業が、地域の歴史の流れの中でどの辺りに位置するものなのかを改めて確認することができました。

続いて、独立行政法人製品評価技術基盤機構(nite)バイオテクノロジーセンター所長の能登靖さんから、今回の芸術祭でのテーマの一つにもなるバイオテクノロジーについてのプレゼンテーションが行われ、バイオの最先端技術とアートの接続する可能性についてヒントを与得ました。

最後に、産業技術総合研究所主任研究員でありニコニコ学会β実行委員会委員長も務めるメディアアーティストの江渡浩一郎さんから、「野生化のための技術」と題したプレゼンテーションが行われ、ハッカソンやアンカンファレンスがもつ共創プラットフォームとしての可能性が示されました。

休憩を挟んでから、青木さんのファシリテーションにより、翌日に向けてのアイディエーションの準備ワークが開始されました。まずは、5人1組になって、1人3分の持ち時間で自分の専門とスキルの紹介と、昼間の視察で印象に残ったモノやコトを写真や動画を見せながら共有。

この作業をメンバーを入れ替えて2セット行なったあと、次のステップでは、自分がどんな作品を作りたいか、アイデアの種を共有していきました。他の参加者の意見を聞くことで刺激を受け、構想を膨らませたりしていると、あっという間に21時半となり1日目の終了時間を迎えました。

最後に全員で記念写真を撮影してこの日は解散となりましたが、参加者たちは会場を出た後も、日立の夜の街に出かけて自主的に活発な交流を続けていました。

Yuki Takai

1986年生まれ 茨城県出身


デザインファームでクリエイティブディレクター/プロジェクトマネージャーを務め、webディレクションをはじめ新規事業創出支援やアートプロジェクトなど幅広いプロジェクトに携わる。

直観力と論理思考の掛け合わせでゴールへの道筋を描くプロジェクトデザインと、デザインリサーチからのコンセプト策定、タッチポイントに合わせた情報設計とドラフトデザインを得意とする。

原動力は反骨心。アートコレクター。